ゆ・ら・ら くるりん
私にも空からプレゼントが届きました…その内容は「パブロフな…〜ひととき」のページをご覧下さい。
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はじめに…
約 束 の ポ ッ ケ
まめさん 作
買い物の帰り道、お母さんの隣でまっすぐ前を向いて、
黙って歩いていたレイちゃんは、急に立ち止まった。
「もう歩けないよお。抱っこしてよ。」
「そんなにおかあさんを困らせないで。わかっているでしょ?抱っこなんてできないこと。」
「だってレイちゃん、疲れたんだもん。いつもお父さんすぐ抱っこしてくれたよ。」
お母さんは悲しそうな顔をして、レイちゃんの顔をじっと見た。
お母さんの腕の中には、すやすや眠る弟のゆうすけがいた。
(どうしてこの子はこの頃聞き分けがないんだろう?)
(あんなにいい子だったのに、あの人が居なくなってから、私を困らせるようなことばかり言ってくる。)
レイちゃんはまだ小さかったけれど、
本当はお母さんが大変なことは、おぼろげながらわかっていた。
(でも仕方ないよ。レイちゃん寂しいんだもん。)
(どうしてゆうすけはお母さんに抱かれているのに、私はひとりなの?)
レイちゃんのお父さんは、暑い暑い夏が来る少し前に、
海を渡って遠い国へひとりで仕事に行ってしまったのだ。
「お父さんはどうして私の側に居てくれないのかな?私のこと嫌いになったのかな?」と
レイちゃんは毎日毎日思っていた。
(おかあさんは、まだ生まれて3ケ月のゆうすけのことばかりかまっている。)
(こうして出かけても私は横にくっついて手をつないでくれるだけ…。)
おしゃまなレイちゃんは、ポッケがいっぱいついた洋服がとっても好きだ。
外へ出かけるときは、必ずポッケにいろんなものを詰め込んだ。
お気に入りの髪飾りや、きれいなカードや、甘いキャンディーや、いろいろいっぱい…。
そうして「ふん、ふん、ふん」と歌いながらご機嫌で外を自慢げに歩くのが好きだった。
一緒に歩いていると、いつもお父さんは、そんなポッケになにかしら内緒で入れてくれた。
そっと手を入れてみると、
それは小さなマスコットだったり、可愛いハンカチだったりした。
「おとうさんは魔法使いみたい。やさしいやさしい私だけの魔法使い」
(甘えるとすぐ抱き上げて肩車してくれたお父さん…今どうしているの?)
ぐずぐず言っておかあさんを困らせていると、
レイちゃんはお父さんの言ったこんなことを思い出した。
「レイ、お父さんはしばらくそばに居られないけど、いつもお前のこと考えているよ。
寂しくなったら、空を見上げてごらん。
空からお父さんのお使いがお前のポッケにプレゼントを届けてくれるよ。
だからおかあさんの言うことよーく聞くんだよ。」
外はとても寒い。
(もう冬になっちゃったんだよ、お父さん。)
風が冷たくて、体中が固くなってくる。
お母さんが抱っこしてくれたら暖かくなるのに…とゆうすけをうらやましく思う。
涙がにじんできた。
手で拭こうとすると、
レイちゃんのちいさな手のひらになにやら白いものが落ちてくる。
「あっ!雪だ。」
…と叫んで空をみあげるとちいさな白い粉雪が、次々と落ちてくる。
じっと見ていると、
その中のふわっと光ったものがレイちゃんの方に落ちてきて、
ポッケの中に入っていった気がした。
恐る恐る手を入れて見ると、
そこには何もないのになんだかあったかい光を感じた。
「お父さんだね。お父さんがレイのこと心配してプレゼント入れてくれたんだね。」
そう思ったら、レイちゃんは元気が出た。
「おかあさん、困らせてごめんね。
お父さん帰ってくるまで、レイ良い子にしているよ。」
おかあさんは何も言わず、
まだ4才になったばかりのレイちゃんをぎゅっと抱きしめた。
粉雪は葉を落とした木の枝に降り積もって、
町のあちこちできらきら光っている。
(不思議ね。冬なのに、この夏、
田舎の川へ見にでかけた夜の蛍を思い出すなんて…)
そんなことを考えながら、
おかあさんはレイちゃんの手を力強く握って、家路に向かった。
…おわり…