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ゆ・ら・ら くるりん

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遠い遠い…森の記憶
(その2)


たっちゃんは眠ったふりをしてこっそりふたりの話を聞いていた

「ねえあなた、もうすぐ赤ちゃんが産まれるし、そろそろたっちゃんひとりで寝るようにしない?

おじいちゃんが居た隣の部屋の押し入れの下をベッドにできないかしら?」



(ぼくひとりで寝るの?隣のあの怖い写真が飾ってある部屋へ?どうしよう…)


「そうだな。もうすぐ1年生だし男の子だもんなあ…。

ぼくが小さな頃使っていた木の机を綺麗にして、達也の勉強机にするか。

ベッドはなんとか作ってみるよ。」



(ぼくの机だって…ぼくのベッドだって…すごいぞ!)


「本当は新しい机やベッドを買ってあげたいけど、今は働いてもっとお金を貯めなきゃ。

そして早く家族みんなで島に帰って、「あの森」にまた会いに行きたいもの。」



(えっ!島に帰るって?「あの森」ってどこなんだろう?)


「そうだね。はやく達也を「あの森」に連れていきたいよ。

あの優しい森に包まれたら、あの子はもっともっといい子になるよ。」


(「あの森」って、そんなにいいところなのかなあ?)



「でもあの子、隣の部屋の写真をひどく怖がっているのよ。

あの木の前に立つと不思議な気持ちになるのに…。

澄んだ透明な気持ちになれるのに…。

そんなたっちゃんを見てるとなんだか悲しくなるときがあるのよ。」



(「あの森」って、隣の部屋にある、写真の中の怖い怖い大きな木があるところなんだ。

まわりが暗くて、すんごくすんごく大きくて、こぶがいっぱいあるあの木がそんなにいいのかなあ?)



「きっと…いつかわかるときがくるさ。だってあの木に会った時、達也あんなに喜んでいたじゃないか。

木の幹に小さな手を何度も当てて、じっと耳をあてて、こっそり話しかけてるみたいだった…。

木とお話しているようなあの子の姿、いつまでも忘れられないよ。」



(ぼく、あの写真の木に会ったことがあるの?お話もしたって?どんな話をしたんだろう?)


「そうね。きっといつかわかる時がくるわね。」


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