ゆ・ら・ら くるりん
遠い遠い…森の記憶
まめさん 作
(その1)
「シャッカ、シャッカ、シャッカ」「バタン、バタン、バタン」
寝返りをうった拍子に目を覚ましたたっちゃんは、耳慣れた音のする方向に目を向けた。
ガラス戸の向こうの部屋は明かりがついていて、音はその向こうから聞こえてくる。
「ああ、お父さんもお母さんもまだ仕事してるんだあ。」
暗い部屋のなかで時計をさがす…
目を凝らすと小さな針は12時を過ぎたところを指している。
たっちゃんが周りを見わたすと、両側にからっぽの布団がふたつ…
ちょっと寂しい気持ちになっちゃったな…って思ったら涙がにじんできた。
「だめだめ!もうすぐ僕はお兄ちゃんになるんだもん。そんな弱虫じゃ赤ちゃんに笑われるぞ!」
そう自分に言い聞かせて、たっちゃんは布団を頭までかぶって眠ることにした。
明日は、朝早くから近所に住むまあ君と、川沿いの桜の並木道に蝉取りに行く約束だったから、
寝坊なんかしてられないさ。
たっちゃんはこの間6才になったばかり…そして来年春には小学一年生だ。
家の仕事はこのまちの小さな印刷屋さんだ…。
お父さんとお母さんと2人で頑張って働いている。
毎日忙しくても明るく笑顔が絶えない自慢の家族。
もうすぐ産まれるあかちゃんをお腹の中に大切に守っているお母さん…
顔がどんどん優しくなっていく気がする。
夜遅くまでお母さんを気遣いながら一生懸命働き、
合間にはたっちゃんと真剣に遊び相手をしてくれるお父さん…
ぼくも早く大きくなってお父さんみたいになりたい。
この間、お父さんとお母さんがこんな話をしていた。