「浮かぶ窓」



全身の力を大地に預け空を見上げる

視線の先には小さな天窓

陽の光の恵みをいっぱいに受ける時間

小さな窓枠からぐいぐいはみ出していく

広い広い青のキャンパス

限りなく上へ上へと引き上げられていく感覚



夜のとばりが降りて少しのざわめきも消された沈黙の時間

小さな窓枠は消えて

見えない空と一体になった淡いモノクロのカーテン

静かに静かに内なる自分の中を覆いつくしていく感覚



それは夢の世界

そんな小さな自分だけの空間を願っていた

家のてっぺんに忘れられたちっぽけな部屋

小さな天窓が唯一の贅沢

家の中なのに自然と一体になる錯覚



きまぐれな空が描く自然の絵画

時に怒りをぶつけるような激しい風の音楽

そよそよと心地よい香りを運ぶ風の粋ないたずら

星は動かず心の琴線をピロンピロンとつまびく



雨の日もいいね

窓を優しく濡らす雨

窓枠に集まる水滴のひとつひとつが

物語を運んでくる



小さな天窓が弱い弱い私を守る

小さな天窓はあなたたちとの境界線

窓を開いて飛んでいきたいのに

優しい大地がそっとそんな私を押しとどめる

窓を開けるのはもう少し先…

熱い衣をまとう沈黙のさなぎはじっとその日を待ち続ける



ほら、目を閉じてあなたのすべてを巨大な耳にしてごらん

ゆらめく内なる炎がちろりちろりと衣を焦がし

見えない内部をきゅるきゅると震わせているよ

その震えはすでに高い窓にも伝わって

古い窓枠の煤けた輪郭がかすかにたわんでいく

もうすぐ…もうすぐ…優しい大地に別れを告げ

浮かぶ窓にその手をかける日

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